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6月

2017/01/10

 

「文弥が起きてくるなんて珍しい」

「まぁ、たまにはな」

 

 挨拶もなく開口一番にかけられた言葉に素気無く返す。毎朝一緒に登校するという名目で直人は俺の住むアパートのチャイムを鳴らしにくる。

この「チャイムを鳴らしにくる」と言う表現は、俺がわざわざ訪ねて来た直人のチャイムを目覚まし代わりにして起床するか、チャイムを無視してそのまま寝坊をしてしまうどちらかのパターンがほとんどだからだ。申し訳ないと言う気持ちもないわけではないが、一向に治らないところを見ると、直人の善意に甘えてしまっているんだろうと思う。そして今日、俺が普通に家から出て来たことに対して、直人が挨拶もなく素直に感動をしてしまっている様子を見る限り、直人も俺が出てくることはおそらく期待していない。

 

 季節は6月。早いことで高校に入学して2ヶ月が経った。学校にもクラスにも大分慣れてきた。中学生から高校生に進級したことで自分が想像していたより真新しいことはなかったように思える。高校に入学することで革新的なことが起こるなんていうのは努力した人の結果論で、自分は高校デビューをするわけでもなく、新しいことに挑戦する気概もなく、進んでグループに入っていくこともしていない。想像はしていたけど期待していたわけではなく、まぁ精々こんなものだろうと納得する。

 変わった事と言えば一応部活動に所属したくらいで。これについても「直人が居る」という理由での入部。我ながら自分の主体性のなさには呆れるが、それでも直人は喜んでくれたので嬉しかった。誰かから必要とされれば嬉しい。孤高を気取って人をバカにする俺からはもう卒業した。

 

 通学路では街路樹のライラックが満開だった。優しい藤色彩られ、花独特の甘ったるい匂いが初夏の暖かい空気にふんわりと馴染んでいる。疎ましいくらいに爽やかな朝だ。

 

 たまの一緒の登校でも直人と特別言葉を交わすことはない。

直人とは中学校来の友人だ。年は二つ離れているけどずっと側にいる。きっかけは何だったなんてことすら忘れてしまった。

中学の頃は毎日登下校を共にして、放課後の少ない時間を共に過ごし、休日は反抗期で家に居たくない俺を快く家へと向かい入れてくれた。特別に感謝を口にすることはなかったけど、中学生独特の痛々しい青臭さを持った俺の心は直人の存在で随分救われた。直人が高校に上がってからは部活動やらで忙しく、遊ぶ機会は一気に少なくなったけど、何かと俺を気にかけていてくれたのかよく連絡をくれた。長い時間を共有しすぎて今更改めて話すことなんてないのだ。

 

通学路の雑踏を2人は緘黙(かんもく)する。直人とだったら沈黙は心地良い。

 

「あ」

ふいに沈黙が破られた。直人が声を漏らしたのに釣られて目を向ける。

「何」

「ブランだ」

「え?」

直人の視線の先には通学する生徒の間を縫って器用に爆走する(表現がちぐはぐだけどそう比喩せざる得ない奇妙な)自電車があった。がっしりとした長身に華美なインナーと桃色の頭髪、そして頭に咲く大輪の華。全身から伝わる気力と躍動。校則のラインを余裕で二、三メートルは飛び越しているであろうその風体は、間違いなく2年のカサブランカ先輩だった。一定スピードを保ちながら雑然と人が歩く狭い隙間も戦隊モノのスタントマンのように颯爽と縫い走る。時々自電車を察知して慌てて避けようとする生徒もいるのだが、それすらも瞬時に感じ取れるのかその生徒の動きと合わせて器用に自電車を方向転換させていく。見事だと言わざる得ない。嵐のようにぐんぐんと生徒を追い抜き小さくなっていく背中を、俺も直人も呆気に取られぼんやりと眺めていた。相変わらず台風のような人だ。

「今日も元気だなー」

間の抜けたのんきな感想を漏らす直人。

「あの、カサブランカ先輩って……何者なんだ」

「いや、俺もよくわかんないんだよねー」

何だそれ。とさすがに突っ込みたくなったが、そもそも俺たちの所属する部活動の存在自体が突っ込みどころが満載なので、まぁいいかと言葉を飲んだ。

 

 直人及び、俺が所属する部活は学校非公式の部活動で、活動名を「叶倶楽部」という。

活動内容は「神社の木に結び付けられた不特定の誰かの願いを叶えること」だ。最初直人からその部活の存在を聞いた時には如何わしすぎる概要が理解ができず、入部することを遠回しに止めたが、結局直人は入部をした。人の決断したことなのでそれ以上については深くは言及はしなかったが、苦労話は多く聞かされており、ついには三年に進級した直人は部長になってしまった。もう一人の三年生の先輩(先輩とは普段呼んでないが)を見ると、直人が部長になるのは必然だとは思う。ただ直人自身は「自分は部長に適任じゃない」ということを何度も漏らしていた。こいつは請負えば責任を持って職務を全うするだろう。ただそれによって直人がおかしなことに巻き込まれたり、気負いすぎてしまうのは目に見えていた。

 俺が部活に入ったのはできる限り直人が安穏に暮らせるように見守る目的もある。実際入ると自分が想像していたよりは混沌とはしていなかったが、直人は気苦労していた。

 中学の時に比べると遥かに大人びた直人は、当時よりも人に強く何かを訴えることができなくなったように思える。太陽みたいに鬱陶しく明るい奴だったのに、部長としてみんなををまとめなければいけないとでも思ってるのだろうか。あんなふざけた部活なのに、直人は常に真面目だ。

 

「漫画みたいな部活だよな」

思った感想をオブラートに口すると

「確かにねー、変な部活動だよね」

直人はあっさり賛同する。

「真央はよくロマンとか言うけど、俺はよく分からないんだよね。部長なのに、こんなんでいいのかな」

「…いいんじゃねぇの、あいつは適当なこと言ってるだけだろうし」

果たしてそこまでの使命感があいつにあるのかは疑問だ。

「あはは、確かに。でもロマンでも何でも、動機があってそれを全うしようとするのは凄いと思うんだよね」

「……」

 

 少しだけ陰りを潜めた直人の作り笑いをなんとなしに見る。

こういう話題になるたびに疑問に思う事がある。直人が何故あの部活に入ったのか、ということだ。流されやすい所はあるけどしっかりと良し悪しの判断の付く直人が、こんな胡散臭い部活に入った事が昔も今も不思議でしょうがなかった。

 

俺が遠回しに反対したのに。俺が直人に対してそこまでの影響力があるかといえば、あまり自信はない。けれど直人はいつも俺の意見に反するときは自分の意思をしっかりと説明してくれた。それは腑に落ちる形でなくとも、そういう考え方があるというのを説明してくれていたのだ。だけど、俺が入部を反対した時には何もなかった。何も1から10まで俺に伝えてくれるとは思わない、けれどそんなことは今までなかったから途方もなく寂しい気持ちになったのを覚えてる。全部俺の我儘だ。

 「直人はなんであの部に入ったんだよ」とは結局ずっと聞けていない。聞けば必ず直人は答えてくれる。だが一度遠回しとはいえ止めている立場として、俺が言うと責めているような語調になってしまう気がした。

 

「直人、部活楽しいか?」

「え?」

 

抱えたもやもやとした感情をオブラートに包む。脈絡のない質問に直人は不思議そうに目を丸めた。

 

「楽しいよ!いや……そりゃやっぱめちゃくちゃ大変だけど」

「……」

「なんだかんだでみんな一生懸命やってくれてるし、俺も頑張んなきゃなって」

「それ以上頑張ったら痩せこけて骨になるぞ」

「なんないよ!俺、中学の時より食うようになったんだから!」

ぴょこぴょことジャンプをして道化に元気さをアピールしてみせる。目立つからやめて欲しい。黙ってじっと直人を見ると、次第に勢いを失いしょんぼりと肩を落とした。

「…はぁ、でもね、やっぱりまだ不安だよ。俺、出来てない事結構あるから」

「出来てない事?」

「うん、出来てない事」

 

 それは一体なんなんだ。あんなふざけた部活動に出来るも出来ないもあるのだろうか。直人は十分によくやってる。気になることは全て喉元で止まって吐き出されることはない。肝心な事を言ったり聞いたりするのがどうにもダメだ。特に近しい人となると殊更顕著だ。

 

「まぁでも!」

直人はこちらの意を介さず言葉を続ける。

「文弥が入ってくれたからそこはすごい助かってる」

「は?」

「俺結構ふわふわしてるから、文弥にズバッって言われると結構安心するんだよね。中学の時から、見習わなきゃーって思ってるよ」

 

急な言葉に目を逸らし、誤魔化すように眼鏡を上げる。

 

「そうだな、お前はほんとに厄介なことに巻き込まれるからな…昔から。直人のせいで俺まで厄介ごとに巻き込まれるしよ」

 

苦し紛れに毒を吐く。我ながら語気が弱く、台詞回しが早い。動揺してるのは誰から見ても明白だろう。直人はそれを見透かしながらも触れずに言葉を続ける。

 

「文弥は部活楽しい?」

「何で」

「え、いやー……もしかしたら俺に合わせて入部してくれたんじゃないかって……」

そんなの聞くまでもなく当たり前のはずだ。直人がいなきゃあんなふざけた部活に入るわけがない。こいつはわかってその質問をしてる、本当にタチが悪い。

「そうだけど……新しく誰かと関係築くのって面倒だし、直人といれば何かと楽だし」

それもまた一つの本心だ。嘘は言ってない。

「やーなんか改めてそう言われると照れるんだけど」

「うっざ」

「高校入ってからデレ文弥頻度増えて俺結構嬉しいよ!」

「デレてねぇよ」

俺の前では昔のように笑っていてくれる直人を見ると、少しだけほっとする。こいつは根っからの善人だ。だからこそ群れるのを嫌う中学の俺に対して、常に関わることを諦めずに居てくれたのだろう。それはきっと俺だけに適用される優しさではない。万人に優しく明るく接することができる直人だからこそ、誰かと一緒に居ることが苦手だった俺でも気が許せた。

それを付け入られたりしないように、少しでも直人の支えになれればと思ってる。

 

もちろん、そんなことは絶対に誰にだって言うわけがない。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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